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神戸地方裁判所 昭和58年(ワ)101号 判決

原告 徳納隆三郎

右訴訟代理人弁護士 神矢三郎

被告 なぎさ美術株式会社

右代表者代表取締役 宮永静代

〈ほか一名〉

右被告両名訴訟代理人弁護士 青野正勝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自金二八〇万円及びこれに対する昭和五七年八月一五日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告なぎさ美術株式会社(以下「被告会社」という。)は、美術工芸品の売買を主たる業務とする会社であり、被告宮永静代(以下「被告宮永」という。)は、その代表取締役である。

2  原告は被告会社に対し、昭和五七年六月二一日、原告所有の一入黒茶碗(以下「本件茶碗」という。)を他の所有陶器類一〇点とともに販売目的で寄託し、その際、被告会社は、右陶器類を原状で返還できない場合には預り証の各品名に付記された金額(本件茶碗については金二八〇万円)を被害弁償することを約した。

3  被告宮永は、前同日、被告会社の右債務につき連帯保証をした。

4  その後、被告会社は前記陶器類のうち一点を他に販売したが、本件茶碗を含むその余は販売できずに同年八月一四日、これを原告に返還したが、その際、原告において直ちにこれを点検したところ、本件茶碗にひび割れの破損が生じていることを発見した。

5  よって、原告は被告らに対し、各自約定賠償金二八〇万円及びこれに対する同月一五日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

《以下事実省略》

理由

一  請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告は、本件茶碗が被告会社に寄託中に破損した旨主張するので、以下検討する。

1  「ひび割れ」の有無及び程度等について

《証拠省略》によると、本件茶碗の外側に細い縦線が一本、内側には同様の縦線一本と横に波状の線が三本生じていること、しかし、これら線状の痕跡は、いずれも一見して識別し難い極めて微細なものであることが認められる。

右認定の事実からすれば、果してこれが「ひび割れ」であるか、或は単なる「筋」かは、そのいずれともにわかに判別し難いところであるけれども、後に認定するように、本件茶碗がいわゆる「樂焼」であることを考えると、その特質上「ひび割れ」とみるのが相当である。

2  本件茶碗の由来及び原告の取得後におけるこれまでの経緯について

《証拠省略》によると、本件茶碗は、京都樂家四代の作といわれているもので、約三〇〇年も経過した古い茶碗であること、原告は、趣味として美術骨董品を取り扱っているものであるが、昭和三五年に本件茶碗を譲受取得して以来、これまでにも、本件茶碗を売りに出して他に預けたことがあり、他の寄託品についてではあるが、本件と同じようなトラブルを起して、訴に提起したり、弁償を要求したりしたことがたびたびあったことが認められる。

3  被告会社が寄託を受け返還するまでの間における保管ないし取扱状況について

《証拠省略》によると、被告宮永は、本件茶碗を預った直後、乗用車でこれを京都市内のホテルに運び、買手の客(大物某氏)に一、二週間位預けた後、同被告においてこれを新幹線で東京まで往復して運んでいることが認められる。

以上認定した本件茶碗の破損程度と出所や原告取得後におけるこれまでの経緯等からすると、本件茶碗の問題の「ひび割れ」がすでに本件寄託前に生じていたかも知れないとする蓋然性を完全に払拭することができず、さりとて一方、被告側における保管取扱状況についても格別の問題が窺われないことからして、これが本件寄託中に生じたものと推認することも到底困難であり(《証拠判断省略》)、結局これら諸般の事情を彼此勘案すれば、本件の場合、右破損が被告側で預っている間に生じたと断定するに足る的確な証拠はないものといわざるをえない。

三  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永岡正毅)

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